もかくれてしまうのだ。
 ふと村からわたしのうちのほうへ通う往来の上に、白いボンネットが見えて、木の間にちらちら見えたりかくれたりしていた。
 それはずいぶん遠方であったから、ぽっちり白く、春のちょうちょうのように見えただけであった。
 けれど目よりも心はするどくものを見るものだ。わたしは、それがバルブレンのおっかあであることを知った。確《たし》かにおっかあだ、とわたしは思いこんでいた。
「さて出かけようか」と老人《ろうじん》が言った。
「ああ、いいえ、後生《ごしょう》ですからも少し」
「じゃあ話とはちがって、おまえは、から(ぜんぜん)、足がだめだな。もうつかれてしまったのか」
 わたしは答えなかった。ただながめていた。
 やはりそれはバルブレンのおっかあであった。それはおっかあのボンネットであった。水色の前だれであった。足早に、気がせいているように、うちに向かって行くのであった。
 白いボンネットはまもなくうちの前に着いた。戸をおし開けて、急いで庭にはいって行った。
 わたしはすぐにとび上がって、土手の上に立ち上がった。そばにいたカピがおどろいてとびついて来た。
 おっかあはいつまで
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