ささやかなけむりが、そこのけむり出しからまっすぐに空へ立ちのぼって、やがてわたしたちのほうへなびいて来た。
 気の迷《まよ》いか、そのけむりはうちのかまどのそばでかぎ慣《な》れたかしの葉のにおいがするようであった。
 それは遠方でもあり、下のほうになってはいたが、なにもかもはっきり見えた。ただなにかがたいへん小さく見えたのは言うまでもない。
 ちりづかの植えにうちの太っためんどりがかけ回っていたが、いつものように大きくは見えなかった。うちのめんどりだということを知っていなかったら、小さなはとだと思ったかもしれない。うちの横には、わたしが馬にしていつも乗った曲がったなしの木が、小川のこちらには、わたしが水車をしかけようとして大さわぎをしてきずきかけたほりわりが見えた。まあ、その水車にはずいぶんひまをかけたが、とうとう回らなかった。わたしの畑も見えた。ああ、わたしのだいじな畑が。
 わたしの花がさいてもだれが見るだろう。わたしの『きくいも』をだれが食べるだろう。きっとそれはバルブレンだ。あの悪党《あくとう》のバルブレンだ。
 もう一|足《あし》往来《おうらい》へ出れば、わたしの畑もなにもか
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