というのである。
「ご亭主《ていしゅ》も気《き》のどくな。運が悪かったのよ」
 と、男は言った。
「まったく、運が悪かったのよ。世間にはわざとこんなことを種《たね》に、しこたませしめるずるい連中《れんちゅう》もあるのだが、おまえさんのご亭主《ていしゅ》ときては、一文にもならないのだからな」
「まったく運が悪い」と男はこのことばをくり返しながら、どろでつっぱり返っているズボンをかわかしていた。その口ぶりでは、手足の一本ぐらいたたきつぶされても、お金になればいいというらしかった。
「なんでもこれは、請負人《うけおいにん》を相手《あいて》どって裁判所《さいばんしょ》へ持ち出さなければうそだと、おれは勧《すす》めておいたよ」
 男は話のしまいに、こう言った。
「まあ。でも裁判《さいばん》なんということは、ずいぶんお金の要《い》ることでしょう」
「そうだよ。だが勝てばいいさ」
 バルブレンのおっかあは、パリまで出かけて行こうかと思った。でも、それはずいぶんたいへんなことだった。道は遠いし、お金がかかる。
 そのあくる朝、わたしは村へ行ってぼうさんに相談《そうだん》した。ぼうさんは、まあ向こうへ行
前へ 次へ
全320ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング