あ、どうもとんだことでね。ご亭主《ていしゅ》はけがをしてね。だが気を落としなさんなよ。けがはけがだが命には別状《べつじょう》がない。だが、かたわぐらいにはなるかもしれない。いまのところ病院にはいっている。わたしはちょうど病室でとなり合わせて、今度国へ帰るについて、ついでにこれだけの事をことづけてくれとたのまれたのさ。ところで、ゆっくりしてはいられない。まだこれから三里(約十二キロ)も歩かなくてはならないし、もうおそくもなっているからね」
 でもおっかあは、もっとくわしい話が開きたいので、ぜひ夕飯《ゆうはん》を食べて行くようにと言ってたのんだ。道は悪いし、森の中にはおおかみが出るといううわさもある。あしたの朝立つことにしたほうがいい。
 男は承知《しょうち》してくれた。そこで炉《ろ》のすみにすわりこんで、腹《はら》いっぱい食べながら、事件《じけん》のくわしい話をした。バルブレンはくずれた足場の下にしかれて大けがをした。そのくせ、そこはだれも行く用事のない場所であったという証言《しょうげん》があったので、建物《たてもの》の請負人《うけおいにん》は一文の賠償金《ばいしょうきん》もしはらわない
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