て行くようにわたしは思った。
なみだをいっぱい目にうかべて[#「うかべて」は底本では「うがべて」]わたしは見回したが、手近にはだれもわたしに加勢《かせい》してくれる者がなかった。往来《おうらい》にもだれもいなかった。牧場《ぼくじょう》にもだれもいなかった。
わたしは呼《よ》び続《つづ》けた。
「おっかあ、おっかあ」
けれどだれもそれに答える者はなかった。わたしの声はすすり泣《な》きの中に消えてしまった。
わたしは老人《ろうじん》について行くほかはなかった。なにしろうで首をしっかりおさえられているのだから。
「さようなら、ごきげんよう」とバルブレンがさけんだ。
かれはうちの中へはいった。
ああ、これでおしまいである。
「さあ、行こう、ルミ、進め」と老人《ろうじん》が言って。わたしのひじをおさえた。
わたしたちはならんで歩いた。幸せとかれはそう早く歩かなかった。たぶんわたしの足に合わせて歩いてくれたのであろう。
わたしたちは坂を上がって行った。ふり返るとバルブレンのおっかあのうちがまだ見えたが、それはだんだんに小さく小さくなっていった。この道はたびたび歩いた道だから、もう
前へ
次へ
全320ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング