うにしてかくしに入れた。
「この子の荷物は」と老人が言った。
「ここにあるさ」とバルブレンが言って、青いもめんのハンケチで四すみをしばった包《つつ》みをわたした。
 中にはシャツが二|枚《まい》と、麻《あさ》のズボンが一着あるだけであった。
「それではやくそくがちがうじゃないか。着物があるという話だったが、これはぼろ[#「ぼろ」に傍点]ばかりだね」
「こいつはほかにはなにもないのだ」
「この子に聞けば、きっとそうではないと言うにちがいないが、そんなことを争《あらそ》っているひまがない。もう出かけなければならないからな。さあおいで、こぞうさん、おまえの名はなんと言うんだっけ」
「ルミ」
「そうか、よしよし、ルミ。包《つつ》みを持っておいで。先へおいで、カピ。さあ、行こう、進め」
 わたしは哀訴《あいそ》するように両手を老人《ろうじん》に出した。それからバルブレンにも出した。けれども二人とも顔をそむけた。しかも、老人はわたしのうで首をつかまえようとした。
 わたしは行かなければならない。
 ああ、このうちにもお別《わか》れだ。いよいよそのしきいをまたいだとき、からだを半分そこへ残《のこ》し
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