なちっぽけな動物が、さるだったのか。
「さあ、これが一座《いちざ》の花形《はながた》で」とヴィタリス親方が言った。「すなわちジョリクール君であります。さあさあジョリクール君」と動物のほうを向いて、「お客さまにおじぎをしないか」
 さるは指をくちびるに当てて、わたしたちに一人一人キッスをあたえるまねをした。
「さて」とヴィタリスはことばを続《つづ》けて、白のむく犬のほうに手をさしのべた。「つぎはカピ親方が、ご臨席《りんせき》の貴賓諸君《きひんしょくん》に一座《いちざ》のものをご紹介《しょうかい》申しあげる光栄《こうえい》を有せられるでしょう」
 このまぎわまでぴくりとも動かなかった白のむく犬が、さっそくとび上がって、後足で立ちながら、前足を胸《むね》の上で十文字に組んで、まず主人に向かってていねいにおじきをすると、かぶっている巡査《じゅんさ》のかぶと帽《ぼう》が地べたについた。
 敬礼《けいれい》がすむとかれは仲間《なかま》のほうを向いて、かたっぽの前足でやはり胸をおさえながら、片足《かたあし》をさしのべて、みんなそばに寄《よ》るように合図をした。
 白犬のすることをじっと見つめていた二
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