》でかざったねずみ色の高いフェルト帽《ぼう》をかぶっていた。ひつじの毛皮の毛のほうを中に返して、すっかりからだに着こんでいた。その毛皮服にはそではなかったが、肩《かた》の所に二つ大きな穴《あな》をあけて、そこから、もとは録色だったはずのビロードのそでをぬっと出していた。ひつじの毛のゲートルをひざまでつけて、それをおさえるために、赤いリボンをぐるぐる足に巻きつけていた。
 かれは長ながといすの上に横になって、下あごを左の手に支《ささ》えて、そのひじを曲げたひざの上にのせていた。
 わたしは生きた人で、こんな静《しず》かな落ち着いた様子の人を見たことがなかった。まるで村のお寺の聖徒《せいと》の像《ぞう》のようであった。
 老人《ろうじん》の回りには三びきの犬が、固《かた》まってねていた。白いちぢれ毛のむく犬と、黒い毛深いむく犬、それにおとなしそうなくりくりした様子の灰《はい》色の雌犬《めすいぬ》が一ぴき。白いむく犬は巡査《じゅんさ》のかぶる古いかぶと帽《ぼう》をかぶって、皮のひもをあごの下に結《ゆわ》えつけていた。
 わたしがふしぎそうな顔をしてこの老人《ろうじん》を見つめているあいだに、
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