って、先にわたしを中へつっこんでおいて、自分もあとからはいって、ドアをぴしゃりと立てた。
わたしはほっとした。
そこは危険《きけん》な場所とは思われなかった。それに先《せん》からわたしは、この中がいったいどんな様子になっているのだろうと思っていた。
旅館《りょかん》御料理《おんりょうり》カフェー・ノートルダーム。中はどんなにきれいだろう。よく赤い顔をした人がよろよろ中から出て来るのをわたしは見た。表のガラス戸は歌を歌う声や話し声で、いつもがたがたふるえていた。この赤いカーテンの後ろにはどんなものがあるのだろうと、いつもふしぎに思っていた。それをいま見ようというのである……
バルブレンはいま声をかけた亭主《ていしゅ》と、食卓《しょくたく》に向かい合ってこしをかけた。わたしは炉《ろ》ばたにこしをかけてそこらを見回した。
わたしのいたすぐ向こうのすみには、白いひげを長く生やした背《せい》の高い老人《ろうじん》がいた。かれはきみょうな着物を着ていた。わたしはまだこんな様子の人を見たことがなかった。
長い髪《かみ》の毛《け》をふっさりと肩《かた》まで垂《た》らして、緑と赤の羽根《はね
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