どもになりすぎたものだから、ついほんとうの母親でないとは言いだしにくかったのだよ。おまえ、ジェロームの言ったことをお聞きだったろう。あの人がおまえをある日パリのブルチュイー町の並木通《なみきどお》りで拾って来たのだよ。二月の朝早くのことで、あの人が仕事に出かけようとするとちゅうで、赤んぼうの泣《な》き声《ごえ》を聞いて、おまえをある庭の門口《かどぐち》で拾って来たのだ。あの人はだれか人を呼《よ》ぼうと思って見回しながら、声をかけると、一人の男が木のかげから出て来て、あわててにげ出したそうだよ。おまえ[#「おまえ」は底本では「おえ」]を捨《す》てた男が、だれか拾うか見届《みとど》けていたとみえる。おまえがそのとき、だれか拾ってくれる人が来たと感じたものか、あんまりひどく泣《な》くものだから、ジェロームもそのまま捨てても帰れなかった。それでどうしようかとあの人も困《こま》っていると、ほかの職人《しょくにん》たちも寄《よ》って来て、みんなはおまえを警察《けいさつ》へ届《とど》けることに相談《そうだん》を決めた。おまえはいつまでも泣きやまなかった。かわいそうに寒かったにちがいない。けれど、それ
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