の女はわたしの寝台のほうへかけてやって来た。
「ぼくを孤児院《こじいん》へやるの」
「いいえ、ルミぼう、そんなことはないよ」
かの女はわたしにキッスをして、しっかりとうでにだきしめた。そうするとわたしもうれしくなって、ほおの上のなみだがかわいた。
「じゃあおまえ、ねむってはいなかったのだね」とかの女は優《やさ》しくたずねた。
「ぼく、わざとしたんじゃないから」
「わたしは、おまえをしかっているのではない。じゃあ、あの人の言ったことを聞いたろうねえ」
「ええ、あなたはぼくのおっかあではないんだって……そしてあの人もぼくのとっつぁんではないんだって」
このあとのことばを、わたしは同じ調子では言わなかった。なぜというと、この婦人《ふじん》がわたしの母親でないことを知ったのは情《なさ》けなかったが、同時にあの男が父親でないことがわかったのは、なんだか得意《とくい》でうれしかった。このわたしの心の中の矛盾《むじゅん》はおのずと声に現《あらわ》れたが、おっかあはそれに気がつかないらしかった。
「まあわたしはおまえにほんとうのことを言わなければならないはずであったけれど、おまえがあまりわたしの子
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