ればならない。それはまっぴらだ」
「もしかあの子のふた親が引き取りに来たらどうします」
「あいつのふた親だと。いったいあいつにはふた親があったのか。あればいままでに訪《たず》ねて来そうなものだ。あいつのふた親が訪ねて来て、これまでの養育料《よういくりょう》をはらって行くなどと考えたのが、ずいぶんばかげきっていた。気ちがいじみていた。あの子がレースのへりつきのやわらかい産着《うぶき》を着ていたからといって、ふた親があいつを訪ねに来ると思うことができるか。それに、もう死んでいるのだ。きっと」
「いいや、そんなことはない。いつか訪《たず》ねて来るかもしれない……」
「女というやつはなかなか強情《ごうじょう》なものだなあ」
「でも訪ねて来たら」
「ふん、そうなりゃ孤児院《こじいん》へ差《さ》し向けてやる。だがもう話はたくさんだ。おれはあしたは村長さんの所へあいつを連《つ》れて行って相談《そうだん》する。今夜はこれからフランスアの所へ行って来る。一時間ばかりしたら帰って来るからな」
 そのあいだにわたしはさっそく寝台《ねだい》の上で起き上がって、おっかあを呼《よ》んだ。
「ねえ、おっかあ」
 か
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