ると、かれはつえでわたしをつきのけた。なぜだ。これがおっかあなら、だきつこうとする者をつきのけるようなことはしなかった。どうして、おっかあはいつだってわたしをしっかりとだきしめてくれた。
「これ、でくのぼうのようにそんな所につっ立っていないで、来て、さらでもならべろ」とかれは言った。
 わたしはあわててそのとおりにしようとして、危《あぶ》なくたおれそこなった。スープはでき上がった。バルブレンのおっかあはそれをさらに入れた。
 するとかれは炉《ろ》ばたから立ち上がって、食卓《しょくたく》の前にこしをかけて食べ始めた。合い間合い間には、じろじろわたしの顔を見るのであった。わたしはそれが気味が悪くって、食事がのどに通らなかった。わたしも横目でかれを見たが、向こうの目と出会うと、あわてて目をそらしてしまった。
「こいつはいつもこのくらいしか食わないのか」とかれはふいにこうたずねた。
「きっとおなかがいいんですよ」
「しょうがねえやつだなあ。こればかりしかはいらないようじゃあ」
 バルブレンのおっかあは話をしたがらない様子であった。あちらこちらと働《はたら》き回って、ご亭主《ていしゅ》のお給仕《
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