ったので、よけいこの男の人相《にんそう》を悪くした。
バルブレンのおっかあはまたおなべを火の上にのせた。
「おめえ、それっぱかりのバターでスープをこしらえるつもりか」とかれは言いながら、バターのはいったさらをつかんで、それをみんななべの中へあけてしまった。もうバターはなくなった……それで、もうどら焼《や》きもなくなったのだ。
これがほかの場合だったら、こんな災難《さいなん》に会えば、どんなにくやしかったかしれない。だが、わたしはもうどら焼《や》きもりんごの揚《あ》げ物《もの》も思わなかった。わたしの心の中にいっぱいになっている考えは、こんなに意地の悪い男が、いったいどうしてわたしの父親だろうかということであった。
「ぼくのとっつぁん」――うっとりとわたしはこのことばを心の中でくり返した。
いったい父親というものはどんなものだろう、それをはっきりと考えたことはなかった。ただぼんやり、それはつまり、母親の声の大きいのくらいに考えていた。ところが、いま天から降《ふ》って来たこの男を見ると、わたしはひじょうにいやだったし、こわらしかった(おそろしかった)。
わたしがかれにだきつこうとす
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