いた。わたしもそのあとから同じことをしようとすると、かれはつえをつき出してわたしを止めた。
「なんだ、こいつは……おめえいまなんとか言ったっけな」
「ええ、そう、でも……ほんとうはそうではないけれど……そのわけは……」
「ふん、ほんとうなものか。ほんとうなものか」
かれはつえをふり上げたままわたしのほうへ向かって来た。思わずわたしは後じさりをした。
なにをわたしがしたろう。なんの罪《つみ》があるというのだ。わたしはただだきつこうとしたのだ。
わたしはおずおずかれの顔を見上げたが、かれはおっかあのほうをふり向いて話をしていた。
「じゃあ感心に謝肉祭《しゃにくさい》のお祝《いわ》いをするのだな、まあけっこうよ。おれは腹《はら》が減《へ》っているのだ。晩飯《ばんめし》はなんのごちそうだ」とかれは言った。
「どら焼《や》きとりんごの揚《あ》げ物《もの》をこしらえているところですよ」
「そうらしいて。だが何里も遠道《とおみち》をかけて来た者に、まさかどら焼《や》きでごめんをこうむるつもりではあるまい」
「ほかになんにもないんですよ。なにしろおまえさんが帰るとは思わなかったからね」
「なんだ
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