ピという犬の家来を一人使っていたが、出世していてお金が取れて、ぜいたくができるようになったので、人間の家来をかかえようと思っている。長いあいだ動物が人間の奴隷《どれい》であったけれども、それがあべこべになるときが来たのである。
家来の来るのを待つあいだに、大将は葉巻《はま》きをふかしながらあちこちと歩き回る。見物の顔にかれがたばこのけむりをふっかけるふうといったら、見物《みもの》であった。なかなか来ないのでじれて、人間がかんしゃくを起こすときのように目玉をくるくる回し始める。くちびるをかむ。じだんだをふむ。三度目にじだんだをふんだときに、わたしがカピに連《つ》れられて舞台《ぶたい》に現《あらわ》れることになる。
わたしが役を忘《わす》れていれば犬が教えてくれるはずになっていた。
やがてころ合いのじぶんに、かれは前足をわたしのはうへ出して、大将《たいしょう》がわたしを紹介《しょうかい》した。
大将《たいしょう》はわたしを見ると、がっかりしたふうで両手を上げた。なんだ、これがわざわざ連《つ》れて来た家来かい。それからかれは歩いて来て、わたしの顔をぶえんりょにながめた。そうして肩《かた》をそびやかしながら、わたしの回りを歩き回っていた。その様子がそれはこっけいなので、だれもふき出さずにはいられなかった。見物がなるほど、このさるはわたしをあほうだと思っているなとなっとくする。そうして見物もやはりわたしをあほうだと思いこんでしまう。
芝居《しばい》がまたいかにもわたしのあほうさの底《そこ》が知れないようにできていた。することなすことにさるはかしこかった。
いろいろとわたしを試験《しけん》をしてみた末《すえ》、大将《たいしょう》はかわいそうになって、とにかく朝飯《あさめし》を食《た》べさせることにする。かれはもう朝飯の仕度のできているテーブルを指さして、わたしにすわれといって合図をした。
「大将の考えでは、この家来にまあなにか食べるものでも食べさしたら、これほどあほうでもなくなるだろうというのですが、さて、どんなものでしょうか」と、ここで親方が口上《こうじょう》をはさんだ。
わたしは小さなテーブルに向かってこしをかけた。テーブルの上には食器《しょっき》がならんで、さらの上にナプキンが置《お》いてあった。このナプキンをわたしはどうすればいいのだろう。
カピがその使
前へ
次へ
全160ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング