い方を手まねで教えてくれた。しばらくしげしげとながめたあとで、わたしはナプキンで鼻をかんだ。
 そのとき大将《たいしょう》が腹《はら》をかかえて大笑《おおわら》いをした。そうしてカピはわたしのあほうにあきれ返って、四つ足ででんぐり返しを打った。
 わたしはやりそこなったことがわかったので、またナプキンをながめて、それをどうすればいいかと考えていた。
 やがて思いついたことがあって、わたしはそれを丸《まる》く巻《ま》いてネクタイにした。大将《たいしょう》がもっと笑《わら》った。カピがまたでんぐり返しを打った。
 そのうちとうとうがまんがしきれなくなって、大将がわたしをいすから引きずり下ろして、自分が代わりにこしをかけて、わたしのためにならべられている朝飯《あさめし》を食べだした。
 ああ、かれのナプキンをあつかうことのうまいこと。いかにも上品に軍服《ぐんぷく》のボタンの穴《あな》にナプキンをはさんでひざの上に広げた。それからパンをさいて、お酒を飲む優美《ゆうび》なしぐさといったらない。けれどいよいよ食事がすんで、かれが小ようじを言いつけて、器用《きよう》に歯をせせって(つついて)見せたとき、割《わ》れるほど大かっさいがほうぼうに起こって、芝居《しばい》はめでたくまい納《おさ》めた。
「なんというあほうな家来だろう。なんというかしこいさるだろう」
 宿屋《やどや》に帰る道みち、親方はわたしをほめてくれた。わたしはもうりっぱな喜劇役者《きげきやくしゃ》になって、主人からおほめのことばをいただいて、得意《とくい》になるほどになったのである。


     読み書きのけいこ

 ヴィタリス親方の小さな役者の一座《いちざ》は、どうしてなかなかたっしゃぞろいにはちがいなかったが、その曲目はそうたくさんはなかったから、長く同じ町にいることはできなかった。
 ユッセルに着いて三日目には、また旅に出ることになった。
 今度はどこへ行くのだろう。
 わたしはもう大胆《だいたん》になって、こう質問《しつもん》を親方に発してみた。
「おまえはこのへんのことを知っているか」と、かれはわたしの顔を見ながら言った。
「いいえ」
「じゃあなぜ、どこへ行くと言って聞くのだ」
「知りたいと思って」
「なにを知りたいのだ」
 わたしはなんと答えていいかわからないので、だまっていた。
「おまえは本を読むこと
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