に組んだ。
「カピ、あなた、ここへ来て、ぎょうぎのいいところをお目にかけてください。わたしはこの貴人《きじん》たちにいつもていねいなことばを使っています――さあ、この玉のような丸《まる》い目をしてあなたを見てござる小さいお子さんに、いまは何時だか教えてあげてください」
 カピは前足をほどいて、主人のそばへ行って、ひつじの毛皮服のふところを開け、そのかくしを探《さぐ》って大きな銀時計を取り出した。かれはしばらく時計をながめて、それから二声しっかり高く、ワンワンとほえた。それから、今度は三つ小声でちょいとほえた。時間は二時四十五分であった。
「はいはい、よくできました」とヴィタリスは言った。「ありがとうございます、カピさん。それで今度は、ドルス夫人《ふじん》になわとびおどりをお願いしてもらいましょうか」
 カピはまた主人のかくしを探《さぐ》って一本のつなを出し、軽くゼルビノに合図をすると、ゼルビノはすぐにかれの真向《まむ》かいに座《ざ》をしめた。カピがなわのはしをほうってやると、二ひきの犬はひどくまじめくさって、それを回し始めた。
 つなの運動が規則《きそく》正しくなったとき、ドルスは輪《わ》の中にとびこんで、優《やさ》しい目で主人を見ながら軽快《けいかい》にとんだ。
「このとおりずいぶんりこうです」と老人《ろうじん》は言った。「それも比《くら》べるものができるとなおさらりこうが目立って見える。たとえばここにあれらと仲間《なかま》になって、ばか[#「ばか」に傍点]の役を務《つと》める者があれば、いっそうそれらの値打《ねう》ちがわかるのだ。そこでわたしはおまえさんのこの子どもが欲《ほ》しいというのだ。あの子にばか[#「ばか」に傍点]の役を務めてもらって、いよいよ犬たちのりこうを目立たせるようにするのだ」
「へえ、この子がばか[#「ばか」に傍点]を務《つと》めるのかね」とバルブレンが口を入れた。
 老人《ろうじん》は言った。「ばか[#「ばか」に傍点]の役を務めるには、それだけりこうな人間が入りようなのだ。この子なら少ししこめばやってのけよう。さっそく試《ため》してみることにします。この子がじゅうぶんりこうな子なら、わたしといっしょにいればこの国ばかりか、ほかの国ぐにまで見て歩けることがわかるはずだ。だがこのままこの村にいたのでは、せいぜい朝から晩《ばん》まで同じ牧場《ぼくじ
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