なちっぽけな動物が、さるだったのか。
「さあ、これが一座《いちざ》の花形《はながた》で」とヴィタリス親方が言った。「すなわちジョリクール君であります。さあさあジョリクール君」と動物のほうを向いて、「お客さまにおじぎをしないか」
 さるは指をくちびるに当てて、わたしたちに一人一人キッスをあたえるまねをした。
「さて」とヴィタリスはことばを続《つづ》けて、白のむく犬のほうに手をさしのべた。「つぎはカピ親方が、ご臨席《りんせき》の貴賓諸君《きひんしょくん》に一座《いちざ》のものをご紹介《しょうかい》申しあげる光栄《こうえい》を有せられるでしょう」
 このまぎわまでぴくりとも動かなかった白のむく犬が、さっそくとび上がって、後足で立ちながら、前足を胸《むね》の上で十文字に組んで、まず主人に向かってていねいにおじきをすると、かぶっている巡査《じゅんさ》のかぶと帽《ぼう》が地べたについた。
 敬礼《けいれい》がすむとかれは仲間《なかま》のほうを向いて、かたっぽの前足でやはり胸をおさえながら、片足《かたあし》をさしのべて、みんなそばに寄《よ》るように合図をした。
 白犬のすることをじっと見つめていた二ひきの犬は、すぐに立ち上がって、おたがいに前足を取り合って、交際社会(社交界)の人たちがするように厳《おごそ》かに六歩前へ進み、また三足あとへもどつて、代わりばんこにご臨席《りんせき》の貴賓諸君《きひんしょくん》に向かっておじぎをした。
 そのときヴィタリス親方が言った。
「この犬の名をカピと言うのは、イタリア語のカピターノをつめたので、犬の中の頭《かしら》ということです。いちばんかしこくって、わたしの命令《めいれい》を代わってほかのものに伝《つた》えます。その黒いむく毛の若《わか》いハイカラさんは、ゼルビノ侯《こう》ですが、これは優美《ゆうび》という意味で、よく様子をご覧《らん》なさい、いかにもその名前のとおりだ。さてあのおしとやかなふうをした歌い雌犬《めすいぬ》はドルス夫人《ふじん》です。あの子はイギリス種《だね》で、名前はあの子の優《やさ》しい気だてにちなんだものだ。こういうりっぱな芸人《げいにん》ぞろいで、わたしは国じゅうを流して回ってくらしを立てている。いいこともあれば悪いこともある、まあ何事もそのときどきの回り合わせさ。おおカピ……」
 カピと呼《よ》ばれた犬は前足を十文字
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