「いいや、この子の使い道はそこいらが相応《そうおう》な値段《ねだん》だ」
「おまえさん、この子をなんに使おうというのだ。足といえばこのとおりしっかりしたいい足をしているし、うでといえばこのとおりりっぱないいうでをしている。いま言ったことをどこまでもくり返して言うが、この子をいったいどうしようというのだ」
そのとき老人《ろうじん》はあざけるようにバルブレンの顔を見て、それからちびちびコップを干《ほ》した。
「つまりわたしの相手《あいて》になってもらうのだ。わたしは年を取ってきたし、夜なんぞはまことにさびしくなった。くたびれたときなんぞ、子どもがそばにいてくれるといいおとぎになるのだ」
「なるほど、それにはこの子の足はじゅうぶんたっしゃだから」
「おお、それだけではだめだ。この子はまたおどりをおどって、はね回って、遠い道を歩かなければならない。つまりこの子はヴィタリス親方の一座《いちざ》の役者になるのだ」
「その一座はどこにある」
「もうご推察《すいさつ》あろうが、そのヴィタリス親方はわたしだ。さっそくここで一座をお目にかけよう」
こう言ってかれはひつじの毛皮服のふところを開けて、左のうでにおさえていたきみょうな動物を引き出した。それが、さっきからたびたび毛皮を下から持ち上げた動物であったのだ。だがそれは想像《そうぞう》したように、犬ではなかった。
わたしはこのきみょうな動物を生まれて初《はじ》めて見たとき、なんと名のつけようもなかった。
わたしはびっくりしてながめていた。
それは金筋《きんすじ》をぬいつけた赤い服を着ていたが、うでと足はむき出しのままであった。実際《じっさい》それは人間と同じうでと足で、前足ではなかった。黒い毛むくじゃらの皮をかぶっていて、白くももも色でもなかった。にぎりこぶしぐらいの大きさの黒い頭をして、縦《たて》につまった顔をしていた。横へ向いた鼻の穴《あな》が開いていて、くちびるが黄色かった。けれどもとりわけわたしをおどろかしたのは、くちゃくちゃとくっついている二つの目で、それは鏡《かがみ》のようにぴかぴかと光った。
「いやあ、みっともないさるだな」とバルブレンがさけんだ。
ああ、さるか。わたしはいよいよ大きな目を開いた。それではこれがさるであったのか。わたしはまださるを見たことはなかったが、話には聞いていた。じゃあこの子どものよう
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