ょう》で牛やひつじの番人をするだけだ。この子がわからない子だったら、泣《な》いてじだんだ[#「じだんだ」に傍点]をふむだろう。そうすればわたしは連《つ》れては行かない。それで孤児院《こじいん》に送られて、ひどく働《はたら》かされて、ろくろく食べる物も食べられないだろう」
わたしも、そのくらいのことがわかるだけにはかしこかった。それにこの親方のお弟子《でし》たちはとぼけていてなかなかおもしろい。あれらといっしょに旅をするのは、ゆかいだろう。だがバルブレンのおっかあは……おっかあに別《わか》れるのはつらいなあ……
でもそれをいやだと言ってみたところで、バルブレンのおっかあとこの先いることはできない。やはり孤児院《こじいん》に送られなければならない。
わたしはほんとに情《なさ》けなくなって、目にいっぱいなみだをうかべていた。するとヴィタリス老人《ろうじん》が軽くなみだの流れ出したほおをつついた。
「ははあおこぞうさん、大さわぎをやらないのはわけがわかっているのだな。小さい胸《むね》で思案《しあん》をしているのだな。それであしたは……」
「ああ、おじさん、どうぞぼくをおっかあの所へ置《お》いてください。どうぞ置いてください」とわたしはさけんだ。
カピが大きな声でほえたので、じゃまされてわたしはそれから先が言えなかった。そのとたん犬はジョリクールのすわっていた食卓《しょくたく》のほうへとび上がった。例《れい》のさるはみんながわたしのことで気を取られているすきをねらって、す早く酒をいっぱいついである主人のコップをつかんで、飲み干《ほ》そうとしたのだ。けれどもカピは目早くそれを見つけて止めたのであった。
「ジョリクールさん」とヴィタリスが厳《きび》しい声で言った。「あなたは食いしんぼうのうえにどろぼうです。あそこのすみに行ってかべのほうを向いていなさい。ゼルビノさん、あなたは番をしておいでなさい。動いたらぶっておやり。さてカピさん、あなたはいい犬です。前足をお出しなさい。握手《あくしゅ》をしましょう」
さるは息づまったような鳴き声を出して、すごすごすみのほうへ行った。幸せな犬は得意《とくい》な顔をして前足を主人に出した。
「さて」と老人《ろうじん》はことばをついで、「先刻《せんこく》の話にもどりましょう。ではこの子に三十フラン出すことにしよう」
「いや、四十フランだ」
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