あ、わたしたちはせっせと働《はたら》きましょう。おまえも働くのだよ」
「ええ、ええ、ぼくはしろということはなんでもきっとしますから、孤児院《こいじん》へだけはやらないでください」
「おお、おお、それはやりはしないから、その代わりすぐねむると言ってやくそくをおし。あの人が帰って来て、おまえの起きているところを見るといけないからね」
おっかあはわたしにキッスして、かべのほうへわたしの顔を向けた。
わたしはねむろうと思ったけれども、あんまりひどく感動させられたので、静《しず》かにねむりの国にはいることができなかった。
じゃあ、あれほど優《やさ》しいバルブレンのおっかあは、わたしのほんとうの母さんではなかったのか。するといったいほんとうの母さんはだれだろう。いまの母さんよりもっと優しい人かしら。どうしてそんなはずがありそうもない。
だがほんとうの父さんなら、あのバルブレンのように、こわい目でにらみつけたり、わたしにつえをふり上げたりしやしないだろうと思った……。
あの男はわたしを孤児院《こじいん》へやろうとしている。母さんにはほんとうにそれを引き止める力があるだろうか。
この村に二人、孤児院から来た子どもがあった。この子たちは、『孤児院の子』と呼《よ》ばれていた。首の回りに番号のはいった鉛《なまり》の札《ふだ》をぶら下げていた。ひどいみなりをして、よごれくさっていた。ほかの子たちがみんなでからかって、石をぶつけたり、迷《まよ》い犬《いぬ》を追って遊ぶように追い回したりした。迷い犬にだれも加勢《かせい》する者がないのだ。
ああ、わたしはそういう子どものようになりたくない。首の回りに番号札を下げられたくない。わたしの歩いて行くあとから、『やいやい孤児院《こじいん》のがき、やいやい捨《す》て子《ご》』と言ってののしられたくない。
それを考えただけでも、ぞっと寒気《さむけ》がして、歯ががたがた鳴りだす。わたしはねむることができなかった。やがてバルブレンも、また帰って来るだろう。
でも幸せと、ずっとおそくまでかれは帰って来なかった。そのうちにわたしもとろろとねむ気《け》がさして来た。
ヴィタリス親方の一座《いちざ》
その晩《ばん》一晩、きっと孤児院《こじいん》へ連《つ》れて行かれたゆめばかりを見ていたにちがいない。朝早く目を開いても、自分がいつもの
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