から警察へ連《つ》れて行って、暖《あたた》かくしてあげてもまだ泣《な》いていた。それで今度はおなかが減《へ》っているのだろうというので、近所のおかみさんをたのんで乳《ちち》を飲ました。まあ、まったくおなかが減っていたのだよ。
やっとおなかがいっぱいになると、みんなは炉《ろ》の前へ連れて行って、着物をぬがしてみると、なにしろきれいなうすもも色をした子どもで、りっぱな産着《うぶぎ》にくるまっていた。警部《けいぶ》さんは、こりゃありっぱなうちの子をぬすんで捨《す》てたものだと言って、その着物の細かいこと、子どもの様子などをいちいち書き留《と》めて、いつどういうふうにして拾い上げたかということまで書き入れた。それでだれか世話をする者がなければ、さしずめ孤児院《こじいん》へやらなければなるまいが、こんなりっぱなしっかりした子どもだ、これを育てるのはむずかしくはない。両親もそのうちきっと探《さが》しに来るだろう。探し当てればじゅうぶんのお礼もするだろうから、と署長《しょちょう》さんがお言いなすった。このことばにひかれて、ジェロームはわたしが引き取りましょうと言ったのだよ。ちょうどそのじぶん、わたしは同い年の赤んぼうを持っていたから、二人の子どもを楽に育てることができた。ねえ、そういうわけで、わたしがおまえのおっかあになったのだよ」
「まあ、おっかあ」
「ああ、ああ、それで三月《みつき》目の末《すえ》にわたしは自分の子どもを亡《な》くした。そこでわたしはいよいよおまえがかわいくなって、もう他人の子だなんという気がしなくなりました。でもジェロームは相変《あいか》わらずそれを忘《わす》れないでいて、三年目の末になっても、両親が引き取りに来ないというので、もうおまえを孤児院《こじいん》へやると言って聞かないので困《こま》ったよ。だからなぜわたしがあの人の言うとおりにしなかった、と言われていたのをお聞きだったろう」
「まあ、ぼくを孤児院《こじいん》へなんかやらないでください」とわたしはさけんで、かの女にかじりついた。
「どうぞどうぞおっかあ、後生《ごしょう》だから孤児院へやらないでください」
「いいえ、おまえ、どうしてやるものか、わたしがよくするからね。ジェロームはそんなにいけない人ではないのだよ。あの人はあんまり苦労《くろう》をたくさんして、気むずかしくなっているだけなのだからね。ま
前へ
次へ
全160ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング