寝台《ねだい》にねているような気がしなかった。わたしは目が覚《さ》めるとさっそく寝台にさわったり、そこらを見回したり、いろいろ試《ため》してみた。ああ、そうだ、わたしはやはりバルブレンのおっかあのうちにいた。
バルブレンはその朝じゅう、なにもわたしに言わなかった。わたしはかれがもう孤児院《こじいん》へやる考えを捨《す》てたのだと思うようになった。きっとバルブレンのおっかあが、あくまでわたしをうちに置《お》くことに決めたのであろう。
けれどもお昼ごろになると、バルブレンがわたしに、ぼうしをかぶってついて来いと言った。
わたしは目つきで母さんに救《すく》いを求《もと》めてみた。かの女もご亭主《ていしゅ》に気がつかないようにして、いっしょに行けと目くばせした。わたしは従《したが》った。かの女は行きがけにわたしの肩《かた》をたたいて、なにも心配することはないからと知らせた。
なにも言わずにわたしはかれについて行った。
うちから村まではちょっと一時間の道であった。そのとちゅう、バルブレンはひと言もわたしに口をきかなかった。かれはびっこ引き引き歩いて行った。おりふしふり返って、わたしがついて来るかどうか見ようとした。
どこへいったいわたしを連《つ》れて行くつもりであろう。
わたしは心の中でたびたびこの疑問《ぎもん》をくり返してみた。バルブレンのおっかあがいくらだいじょうぶだと目くばせして見せてくれても、わたしにはなにか一大事が起こりそうな気がしてならないので、どうしてにげ出そうかと考えた。
わたしはわざとのろのろ歩いて、バルブレンにつかまらないようにはなれていて、いざとなればほりの中にでもとびこもうと思った。
はじめはかれも、あとからわたしがとことこついて来るのて、安心していたらしかった。けれどもまもなく、かれはわたしの心の中を見破《みやぶ》ったらしく、いきなりわたしのうで首をとらえた。
わたしはいやでもいっしょにくっついて歩かなければならなかった。
そんなふうにして、わたしたちは村にはいった。すれちがう人がみんなふり返って目を丸《まる》くした。それはまるで、山犬がつなで引かれて行くていさいであった。
わたしたちが村の居酒屋《いざかや》の前を通ると、入口に立っていた男がバルブレンに声をかけて、中にはいれと言った。バルブレンはわたしの耳を引《ひ》っ張《ぱ》
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