味《きょうみ》のあることではないでしょうか」
 こういうふうに説《と》かれて、医者は行きかけていた戸口からもどって来た。
 ジョリクールはたぶんこのめがねをかけた人が医者だということをさとったとみえて、またうでをつき出した。
「ほらね」と親方がさけんだ。「あのとおり刺絡《しらく》していただくつもりでいます」
 これで医者の足が止まった。
「ひじょうにおもしろい。なかなかおもしろい実験《じっけん》だ」とかれはつぶやいた。
 一とおり診察《しんさつ》して、医者はかわいそうなジョリクールが今度もやはり肺炎《はいえん》にかかっていることを告《つ》げた。医者はさるの手を取って、その血管《けっかん》に少しも苦しませずにランセット(針)をさしこんだ。ジョリクールはこれできっと治《なお》ると思った。刺絡《しらく》をすませて、医者はいろいろと薬剤《やくざい》にそえて注意をあたえた。わたしはもちろんとこの中にはいってはいなかった。親方の言いつけに従《したが》って、看護婦《かんごふ》を務《つと》めていた。
 かわいそうなジョリクール。かれは自分を看護してくれるのでわたしを好《す》いていた。かれはわたしの顔を見てさびしく笑《わら》った。かれの顔つきはひじょうに優《やさ》しかった。
 いつもあれほど、せっかちで、かんしゃく持ちで、だれにもいたずらばかりしていたかれが、それはもうおとなしく従順《じゅうじゅん》であった。
 その後毎日、かれはいかにわたしたちをなつかしがっているかを示《しめ》そうと努《つと》めた。それはこれまでたびたびかれのいたずらの犠牲《ぎせい》であったカピに対してすらそうであった。
 肺炎《はいえん》のふつうの経過《けいか》として、かれはまもなくせきをし始めた、この発作《ほっさ》のたびごとに小さなからだがはげくふるえるので、かれはひどくこれを苦しがった。
 わたしの持っていたありったけの五スーで、わたしはかれに麦菓子《むぎがし》を買ってやった。けれどこれはよけいかれを悪くした。
 かれのするどい本能《ほんのう》で、かれはまもなくせきをするたんびにわたしが麦菓子をくれることに気がついた。かれはそれをいいことにして、自分のたいへん好《す》きな薬をもらうために、しじゅうせきをした。それでこの薬はかれをよけい悪くした。
 かれのこのくわだてをわたしが見破《みやぶ》ると、もちろん麦菓子
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