うであった。
親方は遠くへは行かなかった。かれはまもなく帰って来た。金ぶちのめがねをかけた紳士《しんし》――お医者を連《つ》れて来た。さるだと聞いては医者が来てくれないかと思って、ヴィタリスは病人がなんだということをはっきり言わなかった。それでわたしがとこの中にはいって、トマトのような赤い顔をしていると、医者はわたしの額が手を当てて、すぐ「充血《じゅうけつ》だ」と言った。
かれはよほどむずかしい病人にでも向かったようなふうで首をふった。
うっかりしてまちがえられて、血でも取られてはたいへんだと思って、わたしはさけんだ。
「まあ、ぼくは病人ではありません」
「病人でない。どうして、この子はうわごとを言っている」
わたしは少し毛布《もうふ》を上げて、ジョリクールを見せた。かれはその小さな手をわたしの首に巻《ま》きつけていた。
「病人はこれです」とわたしは言った。
「さるか」とかれはさけんで、おこった顔をして親方に向かった。「きみはこんな日にさるをみせにわたしを連《つ》れ出したか」
親方はなかなか容易《ようい》なことでまごつくような、まのぬけた男ではなかった。ていねいにしかも例《れい》の大《おお》ふうな様子で、医者を引き止めた。それからかれは事情《じじょう》を説明《せつめい》して、ふぶきの中に閉《と》じこめられたことや、おおかみにこわがってジョリクールがかしの木にとび上がったこと、そこで死ぬほどこごえたことを話した。
「病人はたかがさるにすぎないのですが、しかしなんという天才でありますか。われわれにとってどれほどだいじな友だちであり、仲間《なかま》でありますか。どうしてこれほどのふしぎな才能《さいのう》を持った動物をただの獣医《じゅうい》やなどに任《まか》されるものではない。村の獣医というものはばかであって、その代わりどんな小さな村でも、医師といえば学者だということはだれだって知っている。医師の標札《ひょうさつ》の出ているドアの呼《よ》びりんをおせば、知識《ちしき》があり慈愛《じさい》深い人にかならず会うことができる。さるは動物ではあるが、博物学者《はくぶつがくしゃ》に従《したが》えば、かれらはひじょうに人類《じんるい》に近いので、病気などは人もさるも同じようにあつかわれると聞いている。のみならず学問上の立場から見ても、人とさるがどうちがうか、研究してみるのも興
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