雪はもう来なかった。そして空にばら色の光がさして、きょうの好天気《こうてんき》を予告《よこく》するようであった。
すっかり明るくなって、樹木《じゅもく》の形がはっきり見えるようになった。親方もわたしもがっかりして、棒《ぼう》をかかえて小屋を出た。
カピはもうゆうべのようにびくついてはいないようであった。目をしっかり親方にすえたまま、いつでも合図しだいでかけ出す仕度をしていた。
わたしたちが下を向いてジョリクールの足あとを探《さが》し回っていると、カピが首を上に上げてうれしそうにほえ始めた。かれはわたしたちに地べたではなく、上を見ろといって合図をしたのであった。
小屋のわきの大きなかしの木のまたで、わたしたちはなにか黒い小さなもののうごめく姿《すがた》を見つけた。
これがかわいそうなジョリクールであった。夜中に犬のほえる声におびえて、かれはわたしたちが出ているまに、小屋の屋根によじ上った。そしてそこから一本のかしの木のてっべんに登って、そこを安全な場所と思って、わたしたちの呼《よ》ぶ声にも答えず、じっとからだをかがめてすわっていたのであった。
かわいそうな弱い動物。かれはこごえてしまったにちがいない。
親方がかれを優《やさ》しく呼《よ》んだ。かれは動かなかった。わたしたちはかれがもう死んでいると思った。
数分間親方はかれを続《つづ》けさまに呼んだ。けれどさるはもう生きているもののようではなかった。
わたしの心臓《しんぞう》は後悔《こうかい》で痛《いた》んだ。どれほどひどく罰《ばっ》せられたことだろう。
わたしはつぐないをしなければならない。
「登ってつかまえて来ましょう」とわたしは言った。
「危《あぶ》ないよ」
「いいえ、だいじょうぶです。わけなくできますよ」
それはほんとうではなかった。それは危険《きけん》でむずかしい仕事であった。大きなこの木は氷と雪をかぶっているので、それはずいぶん困難《こんなん》な仕事であった。
わたしはごく小さかったじぶんから木登りをすることを習った。それでこの術《じゅつ》には熟練《じゅくれん》していた。わたしはとび上がって、いちばん下のえだにとびついた。そして木のえだをすけて雪が落ちて日の中にはいって来たが、でもどうやら木の幹《みき》をよじて、いちばんしっかりしたえだに手がかかった。ここまで登れば、あとは足をふみはず
前へ
次へ
全160ページ中127ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング