おかみがつかまえて行ったのだ。どうしてあれらを放してやったのだ」
 そう、どうして――そう言われて、わたしは答えることばがなかった。
「行って探《さが》して来なければ」とわたしはしばらくして言った。
 わたしは先に立って行こうとしたけれど、かれはわたしを引き止めた。
「どこへ探しに行くつもりだ」とかれはたずねた。
「わかりません、ほうぼうを」
「この暗がりでは、どこに行ったかわかるものではない。この雪の深い中で……」
 それはほんとうであった。雪がわたしたちのひざの上まで積《つ》もっていた。わたしたちの二本のたいまつをいっしょにしても、暗がりを照《て》らすことはできなかった。
「ふえをふいても答えないとすると、遠方へ行ってしまっているのだ」とかれは言った。
「わたしたちは、むやみに進むことはならない。おおかみはわれわれにまでかかって来るかもしれない。今度は自分を守ることができなくなる」
 かわいそうな犬どもを、その運命《うんめい》のままに任《まか》せるということは、どんなに情《なさ》けないことであったろう。
 ――われわれの二人の友だち、それもとりわけわたしにとっての友だちであった。それになにより困《こま》ったことは、それがわたしの責任《せきにん》だということであった。わたしはねむりさえしなかったら、かれらも出て行きはしなかった。
 親方は小屋に帰って行った。わたしはそのあとに続《つづ》きながら、一足ごとにふり返っては、立ち止まって耳を立てた。
 雪のほかにはなにも見えなかった。なんの声も聞こえなかった。
 こうしてわたしたちが、小屋にはいると、もう一つびっくりすることがわたしたちを待っていた。火の中に投げこんでおいたえだは勢《いきお》いよく燃《も》え上がって、小屋のすみずみの暗い所まで照《て》らしていた。けれどもジョリクールはどこへ行ったか見えなかった。かれの着ていた毛布《もうふ》はたき火の前にぬぎ捨《す》ててあった。けれどかれは小屋の中にはいなかった。親方もわたしも呼《よ》んだ。けれどかれは出て来なかった。
 親方の言うには、かれの目を覚《さ》ましたときには、さるはわきにいた。だからいなくなったのは、わたしたちが出て行ったあとにちがいなかった。燃《も》えているたいまつを雪の積《つ》もった地の上にくっつけるようにして、その足あとを見つけ出そうとした。でもなんの手が
前へ 次へ
全160ページ中125ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング