しがしていると、かれは火の中から一本小えだを引き出して、火をふき消して、燃《も》えている先を吹《ふ》いた。
 かれはそのたいまつを手に持った。
「さあ、行って見て来よう」とかれは言った。「わたしのあとについておいで。カピ、先へ行け」
 外へ出ようとすると、はげしいほえ声が聞こえた。カピはこわがって、あとじさりをして、わたしたちの間に身をすくめた。
「おおかみだ。ゼルビノとドルスはどこへ行ったろう」
 なにをわたしが言えよう。二ひきの犬はわたしのねむっているあいだに出て行ったにちがいない。ゼルビノはわたしがねつくのを待って、ぬけ出して行った。そしてドルスが、そのあとについて行ったのだ。
 おおかみがかれらをくわえたのだ。親方が犬のことをたずねたとき、かれの声にはその恐怖《きょうふ》があった。
「たいまつをお持ち」とかれは言った。「あれらを助けに行かなければならない」
 村でわたしはよくおおかみのおそろしい話を開いていた。でもわたしはちゅうちょすることはできなかった。わたしはたいまつを取りにかけて帰って、また親方のあとに続《つづ》いた。
 けれども外には犬も見えなければおおかみも見えなかった。雪の上にただ二ひきの犬の足あとがぽつぽつ残《のこ》っていた。わたしたちはその足あとについて小屋の回りを歩いた。するとややはなれて雪の中でなにかけものが転《ころ》がり回ったようなあとがあった。
「カピ、行って見て来い」と親方は言った。同時にかれはゼルビノとドルスを呼《よ》び寄《よ》せる呼《よ》び子《こ》をふいた。
 けれどこれに答えるほえ声は聞こえなかった。森の中の重苦しい沈黙《ちんもく》を破《やぶ》る物音はさらになかった。カピは言いつけられたとおりにかけ出そうとはしないで、しっかりとわたしたちにくっついていた。いかにも恐怖《きょうふ》にたえない様子であった。いつもはあれほど従順《じゅうじゅん》でゆうかんなカピが、もう足あとについてそれから先へ行くだけの勇気《ゆうき》がなかった。わたしたちの回りだけは雪がきらきら光っていたが、それから先はただどんよりと暗かった。
 もう一度親方は呼《よ》び子《こ》をふいて、迷《まよ》い犬《いぬ》を呼びたてた。でもそれに答える声はなかった。わたしは気が気でなかった。
「ああ、かわいそうなドルス」親方はわたしの心配しきっていることをすっぱり言った。
「お
前へ 次へ
全160ページ中124ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング