犬であった。
わたしは、まっ白な夜をながめながらまだ二、三分そこに立っていた。それは美しい景色《けしき》ではあったし、おもしろいと思ったが、なんとも言えないさびしさを感じた。むろん見まいと思えば目をふさいで中にはいって、そのさびしい景色を見ずにいることはできるのだが、白いふしぎな景色がわたしの心をとらえたのであった。
とうとうわたしはまたたき火のそばへ帰って、二、三本まきをたがいちがいに火の上に組み合わせて、まくらの代わりにした石の上にこしをかけた。
親方はおだやかにねむっていた。犬たちとジョリクールもまたねむっていた。ほのおが火の中から上って、ぴかぴか火花を散《ち》らしながら屋根のほうまで巻《ま》き上がった。ぱちぱちいうたき火のほのおの音だけが夜の沈黙《ちんもく》を破《やぶ》るただ一つの音であった。
長いあいだわたしは火をながめていたけれど、だんだん我知《われし》らずうとうとし始めた。わたしが外へ出てまきをこしらえる仕事でもしていたら、日を覚《さ》ましていられたかもしれなかったが、なにもすることもなくって火にあたっているので、たまらなくねむくなってきた。そのくせしょっちゅう自分ではいっしょうけんめい目を覚《さ》ましているつもりになっていた。
ふとはげしいほえ声にわたしは目が覚めて、とび上がった。まっ暗であった。わたしはかなり長いあいだねむったらしく、火はほとんど消《き》えかかっていた。もう小屋の中にほのおが光ってはいなかった。
カピはけたたましくほえたてていた。けれどふしぎなことにゼルビノの声もドルスの声もしなかった。
「どうした。どうした」と親方が目を覚《さ》ましてさけんだ。
「知りません」
「おまえはねむっていたのだな。火も消えている」
カピは入口までかけ出して行ったが、外へとび出そうとはしなかった。出口でウウ、ウウ、ほえていた。
「どうした。どうしたというんだろう」わたしは今度は自分にたずねた。
カピのほえ声に答えて、二声三声、すごい悲しそうなうなり声が聞こえた。それはドルスの声だとわかった。そのうなり声は小屋の後ろから、しかもごく近い距離《きょり》から聞こえて来た。
わたしは外へ出ようとした。けれど親方はわたしの肩《かた》に手をのせて引き止めた。
「まあまきをくべなさい」かれは命令《めいれい》の調子で言った。
言いつけられたとおりにわた
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