。「火が消えたら、ここへこのとおりたくさん採《と》っておいたまきをくべればいい」
なるほどかれはたき火のわきに小えだをたくさん積《つ》み上げておいた。わたしよりずっと少ししかねむれない親方は、わたしがいちいちかべからまきをぬくたんびに音を立てて目を覚《さ》まさせられることをいやがった。それでわたしはかれのこしらえておいてくれたまきの山から取っては、そっと音を立てずに火にくべれはよかった。
たしかにこれはかしこいやり方ではあったけれど、情《なさ》けないことに親方は、これがどんな意外な結果《けっか》を生むかさとらなかった。
かれはいまジョリクールを自分の外とうですっかりくるんだまま、たき火の前にからだをのばした。まもなくしだいに高く、しだいに規則《きそく》正しいいびきで、よくねいったことが知れた。
そのときわたしはそっと立ち上がって、つま先で歩いて、外の様子がどんなだか、入口まで出て見た。
草もやぶも木もみんな雪にうまっていた。日の届《とど》くかぎりどこも目がくらむような白色であった。空にはぽつりぽつり星の光がきらきらしていた。それはずいぶん明るい光ではあったが、木の上に青白い光を投げているのは雪の明かりであった。もうずっと寒くなっていた。ひどくこおっていた。すきまからはいる空気は氷のようであった。喪中《もちゅう》にいるような静《しず》けさの中に、雪の表面のこおりつく音がいく度となく聞こえた。
「ああ、この森のおくで雪の中にうめられてわたしたちはどうすればいいのだ。この雪と寒さの中で、この小屋でもなかったらどうなったであろう」
わたしはそっと音のしないように出たのであったが、やはり犬たちを起こしてしまった。中でもゼルビノは起き上がってわたしについて来た。夜の荘厳《そうごん》はかれにとってなんでもなかった。かれはしばらく景色《けしき》をながめたが、やがてたいくつして外へ出て行こうとした。
わたしはかれに中にはいるように命令《めいれい》した。ばかな犬よ。このおそろしい寒さの中でうろつき回るよりは、暖《あたた》かいたき火のそばにおとなしくしていたほうがどのくらいいいか知れない。かれは不承不承《ふしょうぶしょう》にわたしの言うことを聞いたが、しかしひどくふくれっ面《つら》をして、目をじっと入口に向けていた。よほどしつっこい、いったん思い立ったことを忘《わす》れない
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