んべんしてやろうという意を示《しめ》した。
 甲板《かんぱん》をそうじしていた男が、気軽に板をわたしてくれたので、わたしは部下を連《つ》れて野原へ出た。
 犬とかけっこしたり、ジョリクールをからかったり、ほりをとんだり、木登りをしたりして遊んでいるうちに時間がたった。帰ってみると、馬ははこやなぎ[#「はこやなぎ」に傍点]の木につながれて、すっかり仕度ができていて、小舟《こぶね》はいつでも出発するようになっていた。
 わたしたちがみんな船の上に乗ってしまうと、まもなく船をつないだ大づなは解《と》かれて、船頭はかじを、御者《ぎょしゃ》は手《た》づなを取った。引きづなの滑車《かっしゃ》がぎいぎい鳴って、馬は引き船の道をカッパカッパ歩きだした。
 これでも動いているかと思うはど静《しず》かに船は水の上をすべって行った。そこに聞こえるものは小鳥の歌と、船に当たる水の音、それから馬の首につけたすずのチャランチャランだけであった。
 所どころ水はこい緑色に見えてたいへん深いようであった。そうかと思うと水晶《すいしょう》のようにすみきっていて、水の底《そこ》できらきら光る小石だの、ビロードのような水草をすかして見ることができた。
 わたしが水の中をじっとのぞきこんでいると、だれかがわたしの名前を呼《よ》んだ。それはアーサであった。かれは例《れい》の板に乗せられて運び出されていた。
「きみ、よくねられたかい、野原にねむるよりも」とかれはたずねた。わたしは半分、ミリガン夫人《ふじん》にあいさつするように、ていねいによくねむられたことを話した。
「犬は」アーサが聞いた。
 わたしはかれらを呼《よ》んだ。かれらはジョリクールといっしょにかけて来た。このさるはいつも芝居《しばい》をやらされると思うときするように、しかめっ面《つら》をしていた。
 ミリガン夫人《ふじん》はむすこを日かげに置《お》いて、自分もそのそばにすわった。
「それでは、あちらへ犬とさるを連《つ》れて行ってください。わたしたちは課業《かぎょう》がありますから」とかの女は言った。
 わたしは連中《れんじゅう》を連《つ》れてへさきのほうへ退《しりぞ》いた。
 あの気のどくな病人の子どもに、どんな課業《かぎょう》ができるのだろう。
 わたしはかれの母親が手に本を持って、むすこに課業を授《さずけ》けているのを見た。
 かれはそれを覚
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