す」
「じゃあ、お母さま、たんとおやりなさい」と子どもが言った。かれはそのうえなにかわたしにわからないことばでつけ加《くわ》えていた。すると貴婦人《きふじん》は、
「アーサがお仲間《なかま》の役者たちをそばで見たいと言うのですよ」と言った。
わたしはカピに目くはせをした。大喜《おおよろこ》びでかれは船の中へとびこんで行った。
「それから、ほかのは」とアーサと呼《よ》ばれたこの子どもはさけんだ。
ゼルビノとドルスがカピの例《れい》にならった。
「それからおさるは」
ジョリクールもわけなくとびこむことができたろう。でもわたしは安心がならなかった。一度船に乗ったら、きっとなにか貴婦人《きふじん》の気にいらないような悪さをするかもしれなかった。
「おさるは気があらいの」と貴婦人はたずねた。
「いいえ、そうではありませんが、なかなか言うことを聞きませんから、失礼《しつれい》でもあるといけないと思います」
「おや、それではあなた、連《つ》れておいでなさい」
こう言って貴婦人《きふじん》はかじのほうに立っていた男に合図をした。この人は出て来て、へさきから岸に板をわたした。
肩《かた》にハープをかけて、ジョリクールをうでにだいたまま、わたしは板をわたった。
「おさるだ。おさるだ」とアーサはさけんだ。その子どもを貴婦人《きふじん》はアーサと呼《よ》んでいた。
わたしはかれのそばへ寄って、かれがジョリクールをなでたりさすったりしているとき、わたしは注意してその様子を見た。実際《じっさい》にかれは一|枚《まい》の板に皮でからだを結《むす》びつけられていた。
「あなた、お父さんはあるの」と貴婦人《きふじん》はたずねた。
「いえ、いまは独《ひと》りぼっちです」
「いつまで」
「二か月のあいだ」
「二か月ですって、まあかわいそうに、あなたぐらいの年ごろに、どうして独りぼっち置《お》き去りにされるようなことになったの」
「そんな回り合わせになったのです」
「あなたの親方さんはふた月のあいだにたんとお金を持って帰れと言いつけたのではないのですか。そうでしょう」
「いいえ、おくさん、親方はわたしになにも言いつけはしません。ただい一座《いちざ》ののものといっしょに、そのあいだ食べてゆかれさえすればそれでいいんです」
「それで、どれだけお金が取れましたか」
わたしは答えようとしてちゅうちょ
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