たら、ダンスのあとでちがった番組をいろいろとりかえてごらんにいれましょう」
 これはうちの親方の使う口上《こうじょう》の一つであった。わたしはなるべくかれと同じようなしかつめらしい言い方でやろうと努《つと》めた。だがなおよく考えると、喜劇《きげき》を所望《しょもう》してくれなかったことは結局《けっきょく》ありがたかった。なぜといって、どうそれをやるかくふうがつかなかった。ゼルビノという役者が一|枚《まい》足りないばかりではない、芝居《しばい》をするには衣装《いしょう》も道具もなかった。
 とにかくわたしはハープを取り上げて、まずワルツの第一|節《せつ》をひいた。カピは前足でドルスのこしをだいて、じょうずに拍子《ひょうし》を取りながらおどり回った。つぎにジョリクールが一人でおどって、それからそれとわたしたちは順々《じゅんじゅん》に番組を進めていった。もう少しもくたびれたとは思わなかった。かわいそうな動物どもは、やがて昼飯《ひるめし》の報酬《ほうしゅう》の出ることを知って、いっしょうけんめいにやった。わたしもそのとおりであった。
 するととつぜん、みんながいっしょになってダンスをしている最中《さいちゅう》に、ゼルビノがやぶのかげから出て来た。そして仲間《なかま》がそのそばを通ると、かれはずうずうしくもその仲間に割りこんで来た。
 ハープをひきひき役者たちの監督《かんとく》をしながら、わたしはときどき子どものほうを見た。かれはわたしたちの演技《えんぎ》にひじょうなゆかいを感じているらしく見えたが、からだを少しも動かさなかった。寝台《ねだい》の上にあお向いたまま、ただ両手を動かして拍手《はくしゅ》かっさいした。半身不随《はんしんふずい》なのかしら、板の上に張《は》りつけられたように見えた。
 いつのまにか風で船が岸にふきつけられていたので、いまは子どもをはっきり見ることができた。かれは金茶色の髪《かみ》の毛《け》をしていた。顔色は青白くて、すきとおった皮膚《ひふ》のもとに額《ひたい》の青筋《あおすじ》すら見えるほどであった。その顔つきには病人の子どもらしい、おとなしやかな、悲しそうな表情《ひょうじょう》があった。
「あなたがたのお芝居《しばい》のさじき料《りょう》がいかほどですね」と、貴婦人《きふじん》はたずねた。
「おなぐさみに相応《そうおう》した代《だい》だけいただきま
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