きた。犬たちは哀願《あいがん》するような目つきをたえずわたしに向けた。そしてジョリクールはおなかをさすって、おこって、きゃっきゃっとさけんでいた。
それでもゼルビノはまだ帰って来なかった。もう一度わたしはカピをやって、なまくらものの行くえを探《さが》させた。けれども三十分たってから、やはりカピだけ独《ひと》りぼんやり帰って来た。
どうしたらいいであろう。
ゼルビノは罪《つみ》を犯《おか》したが、またかれの過失《かしつ》のためにわたしたちはこんなひどい目に会わされることになったのであるが、かれをふり捨《す》てることはできなかった。三びきの犬を満足《まんぞく》に連《つ》れて帰らなかったら、親方はなんと言うであろう。それになんといっても、わたしはあのいたずら者のゼルビノをかわいがっていた。
わたしは晩《ばん》がたまで待つ決心をした。けれどなにもせずにいることはできるものではなかった。わたしたちはなにかしていればきっとこれほどひどい空腹《くうふく》がこたえないであろうと思った。
わたしはなにか気をまぎらすことを考え出したなら、さし当たりこれほどひもじい思いを忘《わす》れるかもしれない。
なにをしたらよかろう。
わたしはこの問題をいろいろ考え回した。そのときわたしが思い出したのは、ヴィタリス親方がいつか言ったことに、軍隊《ぐんたい》が長い行軍《こうぐん》で疲労《ひろう》しきると、楽隊《がくたい》がそれはゆかいな曲を演奏《えんそう》する、それで兵隊《へいたい》の疲労を忘《わす》れさせるようにするというのであった。
そうだ。わたしがなにかゆかいな曲をハープでひいたら、きっと空腹《くうふく》を忘れることができるかもしれない。わたしたちはみんなひどく弱りきっている。でもなにかゆかいな曲をひいたら、かわいそうな二ひきの犬たちも、ジョリクールといっしょにおどりだして、時間が早く過《す》ぎるかもしれない。
わたしは二本の木によせかけておいた楽器《がっき》を取り上げて、堀割《ほりわり》のほうに背中《せなか》を向けながら、動物たちの列を作ってならばせ、ダンス曲をひき始めた。
初《はじ》めのうちは、犬もさるもダンスをする気にもなれないらしかった。かれらの欲望《よくぼう》は食べ物のほかになかった。そのいじらしい様子を見ると、わたしの胸《むね》は痛《いた》んだ。けれどもかわいそう
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