まま帰って来た。
「ゼルビノはどうした」
カピはおどおどした様子で、平伏《へいふく》した。わたしはかれのかたっぽの耳から血の出ているのを見た。わたしはそれで様子をさとった。ゼルビノはこの憲兵《けんぺい》に戦《たたか》いをしかけてきたのである。わたしはカピがそうして、いやいやわたしの命令《めいれい》に従《したが》いながらも、ゼルビノとの格闘《かくとう》にわざと負けてやったことがわかった。そしてそのため自分もやはりしかられるものと覚悟《かくご》しているらしく思われた。
わたしはかれをしかることができなかった。わたしはしかたがないから、ゼルビノが自分から帰って来るときを待つことにした。わたしはかれがおそかれ早かれ後悔《こうかい》して帰って来て、刑罰《けいばつ》を受けるだろうと思っていた。
わたしは一本の木の下に、手足をふみのばして横《よこ》になった。ジョリクールはしっかりとうでにだいていた。それはこのさるまでがゼルビノと仲間《なかま》になる気を起こすといけないと思ったからであった。ドルスとカピはわたしの足の下でねむっていた。時間がたった。ゼルビノは出て来なかった。とうとうわたしもうとうととねむりこけた。
四、五時間たってわたしは目を覚ました。日かげでもう時刻のよほどたったことがわかったが、それは日かげを見て知るまでもなかった。わたしの胃ぶくろは一きれのパンを食べてからもう久《ひさ》しい時間のたつことをわめきたてていた。それに二ひきの犬とジョリクールの顔つきだけでも、かれらの飢《う》えきっていることはわかった。カピとドルスは情《なさ》けない目つきをして、じっとわたしを見つめた。ジョリクールはしかめっ面《つら》をしていた。
でもやはりゼルビノは帰ってはいなかった。
わたしはかれを呼《よ》びたてたり、口ぶえをふいたりしたけれどもむだであった。たぶんごちそうをせしめたので、すっかり腹《はら》がふくれて、どこかのやぶの中に転《ころ》がって、ゆっくり消化させているのであろう。
やっかいなことになってきた。わたしがここを立ち去れば、ゼルビノはわたしたちを見つけることができないから、そのまま行くえ知れずになってしまう。かといってここにこのままいては、少しでも食べ物を買うお金をもうける機会《きかい》がまるでなかった。
わたしたちの空腹《くうふく》はいよいよやりきれなくなって
前へ
次へ
全160ページ中86ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング