《ぐんしゅう》はかれの道化芝居《どうけしばい》をおかしがって手をたたいた。
巡査はこわい目つきをしてわたしをにらみつけた。
いったいこの結末《けつまつ》はどうなるだろう。わたしは少し心配になってきた。ヴィタリス親方がいてくれれば、巡査《じゅんさ》に答えることもできよう。巡査がわたしに立ちのけと命令《めいれい》したら、わたしはなんと言えばいいのだ。
巡査《じゅんさ》はなわ張《ば》りの外を行ったり来たりしていた。それもわたしのそばを通るときには、なんだか肩《かた》ごしにわたしをにらみつけるようにした。それでいよいよわたしは気が気でなかった。
ジョリクールは事件《じけん》の重大なことを理解《りかい》しなかった。そこでおもしろ半分なわ張《ば》りの中で巡査《じゅんさ》とならんで歩きながら、その一挙一動《いっきょいちどう》を身ぶりおかしくまねていた。おまけにわたしのそばを通るときには、やはり巡査のするように首を曲げて、肩《かた》ごしににらみつけた。その様子がいかにもこっけいなので、見物はなおのことどっと笑《わら》った。
わたしはあんまりやりすぎると思ったから、ジョリクールを呼《よ》び寄《よ》せた。けれどもかれはとても言うことを聞くどころではなかった。わたしがつかまえようとすると、ちょろちょろにげ出して、す早く身をかわしては、相変《あいか》わらずとことこ歩いていた。
どうしてそんなことになったかわからなかったが、たぶん巡査《じゅんさ》はあんまり腹《はら》を立てて気がちがったのであろう。なんでもわたしがさるをけしかけているように思ったとみえて、いきなりなわ張《ば》りの中へとびこんで来た。
と思うまにかれはとびかかって来て、ただ一打ちでわたしを地べたの上にたたきたおした。
わたしが目を開いて起き上がろうとすると、ヴィタリス老人《ろうじん》はどこからとび出して来たものか、もうそこに立っていた。かれはちょうど巡査《じゅんさ》のうでをおさえたところであった。
「わたしはあなたがその子どもを打つことを止めます。なんというひきょうなまねをなさるのです」とかれはさけんだ。
しばらくのあいだ二人の人間はにらみ合って立っていた。
巡査《じゅんさ》はおこってむらさき色になっていた。
親方はどうどうとした様子であった、かれは例《れい》の美しいしらが頭をまっすぐに上げて、その顔には憤
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