計らって、巡査がわたしをつかまえることのできないようにするし、そのうえ犬がふゆかいな目に会わないようにしてやるつもりだ。それに見物も少しはうれしがるだろう。この巡査《じゅんさ》はおかげでわたしたちによけいな金もうけをさせてくれることになるだろう。おまけにあいつは、わたしがあいつのためにしくんでおいた芝居《しばい》で道化役《どうけやく》を演《えん》じることになるだろう。さてあしたは、おまえはあそこへジョリクールだけを連《つ》れて行くのだ。おまえはなわ張《ば》りをして、ハーブで二、三回ひくのだ。やがておおぜい見物が集まって来れば、巡査《じゅんさ》めさっそくやって来るだろう。そこへわたしは犬を連《つ》れて現《あらわ》れることにする。それから茶番が始まるのだ」
わたしはそのあくる日一人で行きたいことは少しもなかったけれども、親方の言うことには服従《ふくじゅう》しなければならないと思った。
さてわたしはいつもの場所へ出かけて、囲《かこ》いのなわを回してしまうと、さっそく曲をひき始めた。見物はぞろぞろほうぼうから集まって来て、なわ張《ば》りの外に群《むら》がった。
このごろではわたしもハープをひくことを覚《おぼ》えたし、なかなかじょうずに歌も歌った。とりわけわたしはナポリ小唄《こうた》を覚《おぼ》えて、それがいつも大かっさいを博《はく》した。けれどもきょうだけは見物がわたしの歌をほめるために来たのでないことはわかっていた。
きのう巡査《じゅんさ》との争論《そうろん》を見物した人たちは残《のこ》らず出て来たし、おまけに友だちまで引《ひ》っ張《ぱ》って来た。いったいツールーズの土地でも巡査はきらわれ者になっていた。それで公衆《こうしゅう》はあのイタリア人のじいさんがどんなふうにやるか。「閣下《かっか》、いずれ明日」と言った捨《す》てぜりふの意味がなんであったか、それを知りたがっていたのである。
それで見物の中には、わたしがジョリクールと二人だけなのを見て、わたしの歌っている最中《さいちゅう》口を入れて、イタリアのじいさんは来るのかと言ってたずねる者もあった。
わたしはうなずいた。
親方は来ないで、先に巡査《じゅんさ》がやって来た。ジョリクールがまっ先にかれを見つけた。
かれはさっそくげんこつをこしの上に当てて、こっけいないばりくさった様子で、大またに歩き回った。群衆
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