一度セエラがエミリイを探し廻った話をした時、ふいにセエラの顔色が変りました。暗い雲が面《おもて》をよぎり、眼に充《み》ちた輝きを消してしまったように思われました。セエラは激しく息を吸いこんだので、声も妙に悲しく、低くなりました。それから口を閉じ、何かをしようか、しまいか、どっちにしようかと思いまどうように、きりりと脣《くちびる》を引きしぼりました。アアミンガアドは、たいていの子なら声をあげて泣き出すところだが、と思いました。セエラは、しかし、泣きませんでした。
「あなた、どこかお痛いの?」
「ええ。」セエラはちょっと黙って、それからいいました。「でも、体が痛いのじゃアないのよ。」それから何事かをしっかり言おうとして、つい小声になりました。「あなただって、世の中の何よりも、お父様がお好きでしょう。」
 アアミンガアドは微かに口を開けたままでした。彼女は父を愛し得るなどと思ったことは、一度もありませんでした。のみならず、ほんの十分間でも父と二人きり向き合っていることを避けるためには、どんなすてばちな事でもしかねない彼女でした。が、そんなことを口に出すのは、模範学校の生徒らしくないと思
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