たの?」「よう、話してったら。」
 余りの騒ぎにロッティなどは泣き出しました。アアミンガアドはのろのろ説明し始めました。
「ダイヤモンドの鉱山はやっぱりあったのよ。やっぱりあったんですって。」
 開いた口と、見張った眼とが、彼女の方に向けられました。
「あの話は真実《ほんとう》だったのよ。何か起って、ちょっとの間カリスフォドさんももう駄目だと――」
「カリスフォドさんて?」とジェッシイは叫びました。
「印度の紳士よ。それからクルウ大尉も、やっぱりそう思って――死んでしまったのよ。それから、カリスフォドさんも熱病で死にかけたんですって。そして、あの人にはセエラがどこにいるか判らなかったんですって。それから、お山には何百万も何百万ものダイヤモンドがあると判ったの。その半分はセエラさんのものなの。それなのにセエラさんは、メルチセデクだけをお友達にして、屋根裏に住んでいたのね。今日カリスフォドさんがセエラを見付けて伴れてってしまったの。もう決して帰って来ないのよ。先《せん》よりも、もっと立派なプリンセスになるのよ。十五万倍も立派になるのよ。――明日のお午《ひる》から、私セエラさんに会いに行くのよ。」
 あとは、ミンチン女史も静めかねるような騒ぎでした。少女達は規則なぞ忘れて、夜半《よなか》まで教室にとどまり、アアミンガアドをかこんで、セエラの手紙を読み返しておりました。手紙の話は、セエラのつくり話などとは比べものにならないほど、奇想天外でした。それに、その話はセエラその人と、隣家のあの印度紳士との間に起った話なので、ひどく魅惑《チャアム》があるのでした。
 この話を耳にしたベッキイは、いつもより早めに屋根裏に上って行きました。彼女は皆から離れて、もう一度、あの小さな魔法の部屋が見たかったのでした。「あの部屋はどうなるのだろう。」ミンチン先生の手に渡るようなことはなさそうに思えました。「何もかも取り払われて、屋根裏はもとの通り空虚《からっぽ》な殺風景なものになってしまうのだろう。」ベッキイは、セエラのためにはこんなことになってうれしいとは思いましたが、後のことを思うと、上って行くうちに自然喉がつまり、眼が曇って来ました。「もう今頃は火の気もないだろう。薔薇色のラムプもないだろう。夕餉《ゆうげ》もないだろう。火のほてりを受けながらお話をしてくれたり、本をよんでくれたりするプリンセスもいないのだろう。あのプリンセスも!」
 ベッキイはしゃくり上げて来る欷歔《すすりなき》を、ごくりとのみこみながら戸を押しあけました。と、思わず彼女は声を立てました。
 ラムプは室内に照りはえ、火は燃えさかり、夕餉の支度もちゃんと出来ています。そしてラム・ダスが笑いながら、彼女の方を見て立っているのです。
「お嬢様がお気づきになりましてね。ご主人様に、すっかりあなたのことをお話しになりましたのですよ。お嬢様は、御自分の幸運《しあわせ》を、あなたにお知らせしたがっていらっしゃるのですよ。このお盆の上のお手紙を御覧下さい。お嬢様がお書きになったのです。お嬢様は、あなたが悲しくお休みにならないようにとお思いになったのでしょう。御主人は、明日あなたにも来ていただきたいと仰しゃっておいででした。明日から、あなたはお嬢様のお附きになるはずです。今夜は、これからここにあるものを、また屋根越しに持って帰らなければなりません。」
 輝かしい顔で、こういい終りますと、ラム・ダスは額手礼《サラアム》をして、身軽に、音も立てずに、天窓から抜け出して行きました。ベッキイはそれを見ると、「あの人はあんなにして、やすやすといろいろのものを運びこんだのだな。」と思いました。

      十九 アンヌ

『大屋敷』の子供部屋は、今までにないような大騒ぎでした。子供達は『乞食じゃアない小さな女の子』と近づきになったため、こうまでうれしいことが湧き出て来ようとは、夢にも思いませんでした。セエラは、ひどい苦労をして来ていることのために、よけい皆から大事にされるのでした。誰も彼もが、セエラの身の上話を、繰り返し繰り返し聞きたがりました。誰しも炉辺で温かにしている時には、屋根裏のひどい寒さの話なども、気持よく聞くことが出来るものです。また、メルチセデクのことや、雀共のことや、天窓から頭を出すと見える四辺《よも》の景色のことなど聞くと、屋根裏部屋は面白い所のように思われるのがあたりまえです。そんな面白いことがあれば、寒くても、殺風景でも、そんなことは気になるまいと思われるのが当然です。
 子供達が一番よろこんだのは、あの饗宴と空想とがほんとになって現れて来たところでした。セエラはカリスフォド氏に見つけられた翌日、初めてこの話をしたのでした。その日、大屋敷の人達はお茶に招ばれ、セエラと一緒に炉の前に坐ったり
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