、蹲ったりしていました。そこで、セエラは例の調子で、その話をしたのでした。印度の紳士も、セエラを見守りながら、耳を傾けていました。話し終るとセエラは印度の紳士を見上げ、紳士の膝に手をかけていいました。
「私のお話はこれだけですの。今度は小父さんの方のお話を聞かして下さいな、アンクル・トム。」紳士の望みで、セエラは紳士を『アンクル・トム』と呼んでいました。「小父さんのお話は、まだ伺いませんのね。きっと立派なのにちがいないわね。」
 そこで、カリスフォド氏はこう語り出しました。病気で物憂く、いらいらしている時でした。一人寂しく坐っていると、ラム・ダスはよく外を通って行く人の品定めをして、病人の気をかえようとしました。中でも一番よく前を通って行くのは、一人の女の子でした。カリスフォド氏はちょうど見付からぬ小さい娘のことを絶えず考えていたところでした。それにラム・ダスから、猿を逃がして、その子の部屋に捕えに行った時の話を聞くと、何かその子に心を惹かれるように感じました。ラム・ダスはその娘の顔色の悪いこと、またその子の様子が召使になどされる下層社会の子らしくないということなども話して聞かせました。ラム・ダスは話すたびに、こんなこともございましたよと、その子の生活の惨めな事実を見付けて来るのでした。ラム・ダスはまた、屋根を伝って行けば、造作なく天窓からその子の部屋に入れるということも話しました。で、そこからすべての計画が始まったわけでした。
「旦那様!」と、ある日ラム・ダスは申しました。「あの子が使に出た留守に、屋根から入って、あの子の部屋に火をおこしておいてやることも出来ると存じます。あの子は濡れ凍えて帰って来て、火を見ると、きっと留守の間に魔法使がおこしておいてくれたのだと思うでございましょう。」
 この思いつきは、非常に奇抜でしたので、カリスフォド氏も、暗い顔に輝かしい微笑を湛えたほどでした。それを見ると、ラム・ダスは夢中になって、火をおこす他に、これこれのこともやろうと思えば造作なく出来ます、と主人に話しました。ラム・ダスの思いつきや計画は、子供じみていて愉快でした。それを実行する準備に忙しかったので、いつもは退屈な永い日が、愉快に飛びすぎて行くようでした。折角の饗宴を、始めない先にミンチン先生に見付けられたあの晩は、ラムダスは持って行くものをすっかり自分の部屋に用意して、天窓から様子を見ていたのでした。彼の背後《うしろ》には、彼と同じにこの冒険に夢中になっている人が、彼を手伝うためにひかえておりました。彼は石盤瓦《スレエト》の上に腹這いになって、天窓から、折角の饗宴がめちゃめちゃにされるところも、ちゃんと見ていました。で彼は、セエラが疲れはててぐっすり寝こんでしまったのを知ると、火を細くした燈籠《カンテラ》を持って、そっとセエラの部屋に忍びこみ、助手が天窓の外からさし出す品を、中で受け取ったのでした。セエラが寝ながらちょっと身動きした時などは、ラム・ダスは燈籠《カンテラ》の火を隠して、床の上に平たく身を伏せたりしました。――子供達は、後から後から質問してこれだけのこと――いやまだいろいろのことを、カリスフォド小父さんから、聞き出したのでした。
「私、ほんとにうれしいわ。」と、セエラはいいました。「私のお友達が小父さんだったのだと思うと、うれしくてたまらないわ。」
 セエラと小父さんとは、たちまち非常な仲よしになりました。二人はいろいろのことで、不思議にしっくりと気が合うのでした。印度紳士は、今までにこんなの気の合う人とめぐりあったことはありませんでした。一月とたたぬうち、彼は、カアマイクル氏が予言したように、まったく別人のようになりました。紳士はいつも愉快そうで、気がひきたっているようでした。あんなに重荷にしていた財産も、今は持っていてよかったと思っていました。まだまだセエラのためにしてやることは、いくらでもあるのです。二人は戯談《じょうだん》に、紳士を魔法使だということにしていました。で、彼はすっかり魔法使になりすまして、何かセエラを吃驚《びっくり》させるようなことばかり考えていました。セエラはふと部屋の中に、美しい花が咲いているのを見つけたこともありました。と思うと、また枕の下から思いもつかなかったような小さな贈物が出て来ました。ある晩のこと、セエラが小父さんと坐っていると、ふと戸の外に、強い前脚で戸を掻くような音がしました。何かと思って、セエラが戸を開けてみますと、大きな犬――見事なロシアの猪狩犬《ボアハウンド》が立っていました。しかも、金銀で造った首輪には、次のような字が、浮き上っていました。
『我名はボリス。プリンセス・セエラの僕《しもべ》。』
 印度紳士の一番好んだのは、襤褸を着た宮様《プリンセス》の思い出でした。大
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