うだったのよ。けれど、あなたのお父様はあの方の御病気がまだ悪いさなかに、亡くなっておしまいになったのですよ。」
「そうして、あの方は、どこに私がいるかは御存じなかったのね。私はこんな近くにいたのに。」
セエラの頭にはなぜか、こんな近くにいたのにということが、こびりついていました。
「あの方は、あなたがパリイの学校にいらっしゃるとばかり思っていらしったのですよ。」カアマイクル夫人は、いって聞かせました。「それに、いつもいつも間違った手掛りに迷わされていらしったんですの。でも、あの方は到る所、あなたを探し廻ってらしったんですよ。あなたが、いたましい様子で通りかかるのを見ていながらも、それが気の毒な友人のお子だとはお気づきにならなかったのね。でも、あの方は、あなたもやはり小さい女の子だもので、気の毒でたまらなくって、どうかしてあなたを幸福《しあわせ》にしてあげようとお思いになったのね。で、あの方はラム・ダスにいいつけて、あなたのお部屋の天窓から、いろいろのものを持ちこんだわけなのですよ。」
セエラは、うれしさのあまり飛び立つばかりでした。彼女の顔色はみるみる変って来ました。
「じゃア、あれは皆ラム・ダスさんが持って来て下すったんですの? あの方がラム・ダスさんにおいいつけになったんですって? 私の夢を現《うつつ》にして下すったのは、それじゃア、あの方だったのだわね。」
「そうですとも。あの方は、親切ないい方なのですよ。あの方は、行方のしれないセエラ・クルウのことを想えばこそ、あなたのこともお気の毒になったのですよ。」
書斎の扉が開いて、カアマイクル氏が姿を見せ、セエラに来いというような様子をしました。
「カリスフォドさんは、すっかり気持がよくおなりです。だから、あなたに来ていただきたいと仰しゃってです。」
セエラは、カアマイクル氏の言葉が終るのを待たず、書斎に入って行きました。入って行った時のセエラの顔は、さっきとはまるで変っていました。
セエラは、紳士の椅子の傍《かたわら》に立ち、両手を腕に組み合せて、うれしそうにいいました。
「あなたがあの、美しいものをたくさん下すったのですってね。」
「そうだよ、可愛い嬢や、私が送ってあげたのだよ。」
紳士は永い間の病気や心配のため、心も体も弱りはてていました。が、彼は、セエラを抱きしめてもやりたいというようなやさしい眼で、セエラを見ました。セエラは父からこれに似たまなざしをよく受けたものでした。で、セエラはそのまなざしを見ると、すぐ紳士の傍に跪きました。昔父とセエラが無二の親友であり、愛人同士だった頃、父の傍に跪いたように。
「じゃア、私のお友達はあなたでしたのね。あなたが私のお友達だったのですわねエ。」
そういうとセエラは、紳士の痩せ細った手の上に顔を押しあてて、幾度も幾度も接吻しました。
それを見ると、カアマイクル氏は細君に囁きました。
「あの人も、もう三週間とたたぬ中《うち》に、きっと元の身体になるだろうよ。ほら、あの様子を御覧。」
カアマイクル氏のいった通り、紳士の様子はすっかり変ってしまいました。『小さな奥様』が見付かったからには、また何か新しい計画を考えなければなりません。まず第一に、ミンチン先生の問題がありました。一応先生にも面会の上、生徒の一身上に起きた変化を、報告しなければならないでしょう。そして、セエラはもう学校には戻らないことになりました。印度紳士はその点だけは、何といっても聞きませんでした。セエラは紳士の家に止《とどま》らなければならぬ、ミンチン先生のところへは、カアマイクル氏が行って、話して来るというのでした。
「帰らなくてもいいんですって? まアうれしい。」とセエラはいいました。「先生は、きっとお怒りになってよ。あの方は、私がお嫌いなのよ。でも、それは私が悪いからかもしれませんわ。なぜって、私の方でも先生が嫌いなのですもの。」
だが、そこへちょうどミンチン先生自身が、セエラを探しにやって来ましたので、カアマイクル氏はわざわざ出掛けて行かないでもすみました。
* * *
* * *
その晩、学校では皆いつものように、教室の煖炉の前に集っていました。そこへ、アアミンガアドが一通の手紙を持って、丸い顔に、妙な表情を浮べながら入って来ました。
「どうしたの?」と、二三人一時に叫びました。
「私、たった今、セエラさんから、この御手紙いただいたの。」
「セエラからですって?」「セエラはどこにいるの?」
「おとなりよ。印度の小父さんの所にいるのよ。」
「え? あの子は逐い出されたの?」「ミンチン先生は、そのことを知っているの?」「どうして、手紙なんかくれ
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