がひりひり痛むことがあっても、おじいさんの親切ないたわりと、少年のやさしい接吻《キス》とは、すべての苦痛をおぎなって余りあるのでした。パトラッシュはこの上何をのぞみましょう。けれどもそのパトラッシュにたった一つ、不安と言えば言えるものがありました。それはこうでした。アントワープの都には、古代石造建築の名残りが、たくさん残っています。今はもうアントワープは、俗っぽい商業地になってしまいましたけれど、それでも、尊いお寺やお社が、昔の名残りを止《とど》めていました。
 世に名高い大画家ルーベンスはこの町に生れたのです。アントワープが商業地以外に芸術の都としても世に知られるようになったのはひとえにこのルーベンスのおかげでした。彼の尊敬すべき偉大な魂は今もなおアントワープの町の上をさまよい、見守っていると言えましょう。ほんとにアントワープ到るところにルーベンスを感じ、ルーベンスを感じることによって、この町のすべてが清められ深められるとも言えましょう。
 そのルーベンスの白い墓標は、アントワープの中央、セントジャック寺院内の、いとものしずかなところに立っています。そのしずけさの上を、時折、おだやか
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