がらも、そのしげった緑の葉で小屋をつつんでくれたぶどうも、冬になるとみすぼらしく枯れはてて、黒い汚い蔓がからみついているばかりです。あやまって水を床にこぼしたりすれば、じきそれが凍りついてしまうのでした。広い荒野《あれの》は雪に埋れて、ネルロのきゃしゃな手足は痺れパトラッシュの頑丈な脚も氷柱で傷ができました。しかしふたりは健気にも泣き言一つ言わず、梶棒の鈴の音もほがらかに、毎朝三里の道を行くのでした。アントワープの町の人々はみないじらしがって、パン切れにスープをそえて、持ち出して来てくれるおかみさんや、かえりの空車《あきぐるま》の中へ薪《たきぎ》の束を入れてくれる人などあらわれました。また同じ村の女などで、わざわざ牛乳などとっておいて、ふたりのかえりをねぎらってくれる人もあるのでした。
そういうわけで、知るかぎりの人々に愛され、いたわられて、この小さな藁小屋の中はいつもたのしげな笑声《わらいごえ》がみちていました。
パトラッシュは、ほんとうに幸福《しあわせ》でした。同じ炎天の下《もと》でも、同じ氷雪の路でも、昔と今では地獄と極楽の相違です。たとえひどく空腹をかんじ、足の傷《いたみ》
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