丈が平気で、お椀へ一杯砂を盛り上げて、何の真似か知らぬが、小さい手を合せて拝んでいる。
之は何でもない事だと、耳で聴いた人は云うであろう。だが眼で見たものが、此の哀れな生きものたちへ「復讐の代償」を試みる勇気があろうか? 「愛してやって呉れよ。」その言葉は誰の口から出ようとも、此の場合に当て嵌った真実ではないか?
一日二円を儲けた人が、一円を割りさいて与えようと思うのは此のような時である。
「その品はあの人にやって下さい。」
「その本をあの子に教えてやって下さい。」
「その楽しい歌をあの子に唱わして下さい。」
皆は斯う願わねばなるまい。ああ、それは本能によっても、思想によっても、当然なことではないか。もう分り過ぎた事である。
私は本当に心が片輪なのではなかった。唯時々片輪になるに過ぎない。私には正しい事物が好く分るのだ。だのに、あの少女を、あの正直そうな初心な盗人の処女を何うして罠へ引き入れ得るか?
私には時々悪魔が取りつくのか? 幼い時に正しい愛で養育されなかった事、思春期に於ける修養を欠いた事、この二つは悪魔の大好物である。私は不当な変態心理の父母を持たねばならなかった。
前へ
次へ
全146ページ中98ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
松永 延造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング