るのか?」と未知の男は叫んだ。それが矢張り礼にかなっているようでもあった。
「落ちているんだとも。だが、そりゃ、上っちまうより安全なんだ。」と我が青年は答えた。
「洒落やがんない。俺が分らないのか。今俺の友達の奴はな。蒸し釜の蓋のネジがゆるんだんで、それを締め直しに、大きな釜の上に登ったんだ。それから、ネジを締めたんだ。すると、ネジの奴、金が古くなっているんで、ポサンと頭がモゲやがったんだ。おい。こっちをちゃんと向かねいかい。それで、釜と蓋との間から、蒸気が噴き出して来てな。その力で他のネジも皆一偏に頭がモゲて、パーンと云うと思うと、もう工場中は湯気で真白に曇っちゃったんだ。すると、上の方でポーンと云うんだ。ハッと思って見ると、屋根が吹き飛んで、大きな穴から青空が見えるじゃないか。そして、ああ、眼をつぶって呉れ! 俺の友達の奴……まるで吹き矢の矢のように、その穴から、空へと吹きっ飛ばされやがった。急いで外へ出て見ると、俺のすぐ前へ、ドサンと肉体が落ちて、弾みもしないで、タタキへのさばりやがった。グサッと音がしたんだ。おい。こっちを向けい! 友達はそれでも死ねないで、唸りやがった。『苦し
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