ない。起訴した処で、我々が敗けるのは初めから判明しているのではないか。
 息子は妹を強いて姦したと云うのではない。又放火を教唆したとしても、その證拠は上っていない。それに裁判官達にも名誉と云うものが必要である。そして之は真理を葬ることに慣れた一地方に起った事である。間違った判決をその儘で通すのが、彼等に取って最も利益であるのは判り過ぎているではないか。それが彼等の妻子を安全に暮させる最上の方法である。それが彼等の鬚に滋養をつけ、一層上方へ伸び上げるようにする最適の方法なのである。裁判長の鬚は後ろからでも見える――その鬚こそ此の地方での最も誇る可き名物だったのだ。裁判長は神経衰弱に落ちて、カルシュームを含むカルピスと精力素と云う薬と、ヘモグロピンとヴィタモーゲンとを服用し、その上にビフステキを食べるのだが、其れが皆鬚になって了うのである。

   朝鮮人を憐む支那人

 何うして忘れ得よう。そして何を忘れようと云うのであるか。いや、反対に、私は記憶のあらゆる粒を一時に思い浮べるのだ。
 私は歯がみをし、骨が響きを発する程に腕を振り、又眼前の物体は何に限らず蹴返した。あの沈着で痩薄な院長、
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