んが、暑い日中、畑へ出て、働いて出来たのだね。それは暑さの籠ったお金だね。ああ暑い日中丈は畑へ出ぬように……」と老いた人は独語とも祈りとも判明しない言葉を、天に向き、又地に向いて呟いた。
それから彼女は二十銭を可愛い子供に与え、子供はその半分で果物を買い、半分で鉛筆のような品を求めた。
さっき迄意地悪くしていた子供は大変嬉し相に飛び立った。そうして、自分の家の鳩へ、他所の犬をけしかけるのをやめた。
子供は何かしら三つ許りの歌を一緒に混ぜて歌い乍ら、庭に落ちている鳩の抜け羽を拾って遊んだ。
「斯んなにして、毎日羽をためたら、今に妹の枕が出来ようか?」と子供は母と覚しき女性に尋ねた。
「丹精にしていれば、出来相もないと思われた色々の事さえ、思いがけぬ程早く出来るものだ。」と母らしい人は答えた。
此の有様を巣の入口で眺めて居たのは年をとった一羽の鳩であった。
鳩……この小さい脳髄は何を考えて居たであろう。鳩は何度か首を傾け、あたりに犬の居ないのを確めて後、恐らく次のように鳴いた。
「自分の惜しく思う品を、思い切って人に与えても、その品を人が自分と同じように大切にしているのを知る事は
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