ク毛を口先で吹いたり、子供の時に出来たと云う小さく愛らしい腫物の痕を見せたり、生ぶ毛の話をしたり、或はもっと精神的な方へ材料を代えて、ラファエルの運命の三女神中何れが魅惑的かと尋ね、ゲーテの艶福を評したり、態と椅子をガタガタさせ乍らベトーヴェンが悲劇的な男である理由を聞いたり、(その癖答えなぞは聞いてはいない。)[#「(」「)」は、「(」「)」が二つ重なったもの]その他あらゆる誘惑の機会を造り出そうとしていたのであった。そうだ。下らない事の極みである。
「そうだ。あの女に相違ない…‥」此の考えは私に取って甚だしく不愉快ではなかった。唯もう少しあの女が美しければ好いのだが、と云う嘆きがなかったならば……
 扉の外では頻りに空気が動き、又留った。若しあの女ならば出来る丈からかってやろうと云う悪心から、私は寝たふりをして声なぞは決してかけてやらなかった。けれど年がさの女は大胆である。苦しい胸を打ち明けるために、此の離れて静かな室が最適なのを知るのであろう。そっと扉を動かして、中の様子を窺うのが私の背中へ感ぜられた。私は寝返りを打つ事も出来ず、息苦しい気分になって、顔を皺めた。私はもう戦いに敗
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