女ならば誰であろうか? 之が私の無言の質問であった。
「あれかも知れない……」と私が推定した当の人物は矢張り女性であった。彼の女は何時も私の眼に何物かを読もうとして焦躁しているのが分っていた。私が一寸戯れにやさしい顔をすると、向うは却って真面目に怯えたりした事もあるその女と云うのは独身の看護婦長であり、女の癖に極く慎ましい方であった。従って幾らか物識りのように見えた。彼の女は何うかして私の口に「恋愛」と云う言葉を上させようとして骨を折り、色々の導火線へ火をつけて見ていたのである。彼の女は胸の中で「私達はもう恋を仄かに感じ合っているのだ。唯お互いに内気だから打ち明けずにいるのだわ。」と云う一人定めの思想を抱いているのが確かであった。女は早く私から「甘い苦しみ」と云う奴を打ち明けて貰おうとして、もう夢中になっていた。始終自分の服装を替えたり、歩きつきを誇張したり、つまらぬ事に驚きの声を発して見たり、フンフンと鼻を鳴らしたり、一人で海岸へ行くと云ったり、森へ行くと云って出掛けなかったり、態々犬を私のそばへ連れて来たり、鸚鵡にものを云わせて見たり、風呂に入って香水をつけて来たり、腕をまくってム
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